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すごい旅の話

2020-07-20

観光地としてでない、暮らしの場としての「高岡市」の魅力とは −− 高岡ツアーリポート②

富山県では、県中央部にある呉羽(くれは)丘陵を境に、東部を「呉東(ごとう)」、西部を「呉西(ごせい)」と呼びます。呉東の中心が富山市なのに対し、呉西の中核は、歴史とものづくりの薫りに包まれる人口約17万人の都市、高岡市です。

今回、この高岡市内で、観光ではなく移住・定住を切り口にしたツアーと意見交換会が開催されました。定番の観光名所巡りではなく、高岡での暮らしに思いを馳せつつ地域を回った2日間。短い間にも垣間見えた「地域の人にとっては当たり前だけど外の人が知らない高岡」を、4回に分けて詳報します。

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高岡について本気出して考えてみた

初日の3月5日夜、意見交換会に集まったのは「たかおかPRアンバサダー」と「たかおかウェルカムサポート隊」のメンバーやその知人、市職員ら。湯浅さん、izuminさん、筆者を加え計20人ほどが「高岡の魅力を再発見する」ことを念頭に置いて話し合った。「アンバサダー」は高岡市移住促進サイト「あっ、たかおかで暮らそう」のブログなどで高岡の魅力を発信しており、「サポート隊」は移住者や移住希望者と地域の橋渡し役を担っている。いずれも市と連携した、地域を盛り上げたいと考える市民による集まりだ。

会場となったのは、高岡市戸出地区に建つ築100年以上の古民家「もろや」。居間には囲炉裏がしつらえられており、高い天井を走る重厚で太い梁からは自在鉤(じざいかぎ)が吊り下げられている。自在鉤とは囲炉裏の上から下げて鍋や釜をかけることができ、上下動させることで火加減を調整できる道具。下の右側の写真でも確認できる「魚」は高さを固定するための留め具で、火の用心や火事を防ぐ意味合いで水を連想させる魚のデザインが良く使われているそうだ。リノベーションはしてあるが、家屋全体が情緒をまとっている。普段は家主の野原道子さんの知人、友人のみ宿泊を受け入れている。湯浅さん、izuminさん、筆者は今回ここに泊まらせてもらった。

会ではまず、移住者・定住者増を目的にまち歩きやイベントを通して戸出地区の魅力を発信している団体「戸出によっといで」の活動を、サポート隊メンバーでもある清都勢憲さんが紹介。清都さんは戸出生まれで現在は同地区でジェラート店「戸出ジェラート」を経営している。戸出が歴史ある地域であること、そしてその歴史に紐づいたワークショップや催しを打ち出しているものの、地域全体の空気としていまいちポテンシャルを発揮しきれていない部分があり「そこを変えたいと思って活動しています」と現状を語った。

経験則からの「きっかけ作り」案

続いて湯浅さんが「登壇」。まず、アイスブレイクとして、参加者を3人組に分け自己紹介や最近楽しかったことを語り合わせた上で、自身の経歴や取り組みを話し始めた。

湯浅さんは会社員時代に地方就職促進事業に携わる中で「東京の人たちは地域の人たちと会う機会、同好の士と会う機会を求めている」と実感し、地域に興味を持つ人が集まるコミュニティLocalist Tokyoを設立。東京と長野県塩尻市で二拠点生活をしながら、東京と地方をつなげるイベントやツアーを企画・運営するコミュニティビルダーとして活動している。「つまり地域の暮らし・仕事を東京の人に伝えたい人」と自己紹介。名刺には「地域と東京をつなぐメガネ」と書いてある。

Localist Tokyoには毎月15人ほど新規の人が集まってくるという。「地域の魅力は一言でいうと『人』だと思っている。仲良くなった人の所には行ってみたくなる」。では、どうやって仲良くなるのか。例に挙げたのはLocalist Tokyoで以前行われたイベントの一つ「八丈焼酎を木曽の紙漆器でいただく会」。名の通りのイベントで、元ミス八丈島も参加したという。

「焼酎はおいしいけど、正直、ネットでポチれば簡単に送られてくる。でもこうしてイベントとしてみんなで飲むと、もっと実際に八丈島に行きたくなる。そういうことを高岡でも起こせたらいいな〜、と思っています。人と人がいきなり『仲良くなりましょ』は難しいけど、『焼酎飲みませんか』だと『あっ飲みたい』ときっかけを作ることができる」

地元の日常も魅力的な非日常かも

高岡のファンを増やすためにどう「きっかけ」を作るか。「そのヒントは先ほど皆さんに話してもらった『最近楽しかったこと』の中にないかな、ってちょっと期待しています」

「例えば、今日高岡を回った中で、国吉活性化センターでコンバインを見て『乗りてえな』と思いました。農家さんにとっては日常でも、ぼくたちからすれば稲刈りをしているコンバインに乗れる機会なんてない。非日常なんです。皆さんの『楽しいこと』にそういうものがもっとあるんじゃないかな、と思っています」

地元の人にとっては何でもない日常の出来事の中に、外の人間にとっての心躍る非日常が潜んでいるのではないか――。「そういうこと」を面白がれる人たちをファンにすることは、移住・定住にしても旅行にしても地域にメリットがあるように思う。生活や風習に基づいた地域の文化や物語に惹かれる人たちとの結びつきは、きっと単発で終わりにくい。彼らは表面をなぞっただけのような体験では満足しない分、すぐに飽きるということもない。Localist Tokyoのようなコミュニティが営まれていることは、「そういうこと」を面白がれる人たちが少なからず存在するという証でもある。

izuminさんも語る。「私は普段ブロガーとして国内外色んな地域を取材しています。日本全国の地域の方々は、自分の地域が持っている特色や魅力が当たり前になりすぎていて『あ、そんなので喜んでもらえるの?』となっていることもあります」

戸出の瓦販売店「カワラート・ハラ」の原夏美さんは話を聞く中で食が重要なのでは、と感じた。湯浅さんは「基本的に多くの人が魅力を感じる部分なので、それで良いと思う」とした上で、気を付けなければいけない点もあると指摘する。「(食をテーマにイベントをすると)ただ単においしいものを食べに来るだけの人も中にはいるということです。どうやったら人を選べるか、という話」。打開策の一つとして、一定程度の料金を設定することを挙げる。また、ファンを作ることがフィルターの役割を果たす、とも。「例えば食じゃないイベントを東京でやる。そこに来てくれた人は本当のファンになってくれる確率が高いですよね。それを少人数でも続けていき、残った30人で『パーティーしましょう』と言えたらいいのかなと思います。正直すぐには解決しないことだから、時間はかかるけど根気よく続けていくしかない」

Localist TokyoのFacebookページ上では毎週日曜日22時〜23時に、地方の面白い人やモノを題材にした「ラフに○○語らせて」をライブ配信している。高岡のファン作りの情報発信の第一歩として、湯浅さんは3月22日の配信への出演を「チーム高岡」に提案した。

「最近これが楽しかった/稲刈り一緒にやらない?/東京は家が狭いだろうからうちの庭でバーベキューやらない?/古民家で富山の地酒飲む会やるから来ない?――そういうので良いんです。大切なのは皆さんが楽しむこと。そして見た人が一緒に楽しめるもの。それをちょっと紹介しませんか」

呼応するように地元の人たちも胸の内を言葉にしだす。「アンバサダー」の中井美里さんは「農業は時期ごとに全然違う顔を見せると思います。5月の田んぼに水が入るタイミングとかは、水の反射がすごくきれいで。立山連峰がめちゃくちゃきれいに見える時もある。富山は晴れが少なくてこういう景色を見れるタイミングも少ないんですけど、今日(人が)来てくれてたらな〜て思うときはあります。住んでいないと分からないことを知ってほしいけど無理やしな、と考えたりしていました」。

刺さる発信≠パンフレットの情報

「まさに今おっしゃったことを発信するというのが一つ目のステップだと思います。写真も一緒に載せて。その情報を見て『この時期に来たい』となるのはあります。小さなことでも自分の好きなこと、きれいなことって外の人にもグッときます」とizuminさん。情報発信の心構えを伝える。「PR隊の人がイベントをレポートしたり何かをやってみたよっていうのが一つの記事の形だと思います。それを我々は見て『参加できるのかな』て思ったりする」

同じく「アンバサダー」の廣地祐輔さんは「農業は僕にとって『超日常』。日常だと思っているから『そういうことで良いのか』と今お話ししてて思いました」。これに対しizuminさん。「そういうので良いんです。『稲が5cm伸びました』だけでも見る側は『ああ、成長してる』となる。おいしいお米が食べたいな、生産者を知りたいな、生育状況知りたいな、という人たちはいて、成長記録を発信している人もいますから」

もろや家主の野原さんは京都に住みながら家の管理をしている。「家の“おもり”だけではもったいないと思って、友達を呼ぶようになった。私らおばさん世代は大体、パンフレットを見て観光バスでバーッと行って観光地巡りのようなことしか経験していない。友人をここに連れてくると『こんなとこあんねやな』と。港近くの寿司屋に連れていくと『都市部の半額以下でこんなにおいしいものが』とむっちゃ喜ばはる」

「それはぼくの仲間が皆求めていることで」と返す湯浅さん。「パンフレットに載っていることはパンフレットを見ればいいと思っていて。地元の人が行く所を知りたいってのは、本当においしい店が知りたいってのはあるけど、もっと言うと地元のその『人』を知りたい。この人が言って外れたんならしょうがないって思える。この人のことがもっと知りたいんです。そういうことが高岡でも起きたらいいなと思います」

湯浅さんとizuminさんの2人が口をそろえたのが、継続することの大切さ。湯浅さんはイベントを続ける中で地域の暮らしに関心がある人たちと知り合いコミュニティを作った経験から「共感できる人といかにタイミングを逃さず会うか。そのタイミングを逃さないために継続することが必要」と話し、izuminさんも「ブログの記事も簡単に言うと同じ。20年以上続けている人たちは『伝えたい力』がすごい。毎日のこつこつが自分のヒントになったり共感を集めるんだと思います」と応じる。

そして継続が大事だからこそ、自分たちも楽しむことが必要になってくるのだろう。「楽しいから続けられる。どうしたら面白いことになるかは日々発信する中で学ぶことでもあるし、高岡に興味を持った人たちと一緒に考えていけばいい。もちろん、どうやっても伝わらないこともあるけど、伝え方を変えたら伝わることもある。そこは継続していく中で高岡のやり方を作っていければいいなと思います」(湯浅さん)。

地元とはいっても世代も職業も違えば共有されていないことも、当然ある。こんなやりとりもあった。昆布締め専門店「CRAFTAN」の竹中さんや清都さん、湯浅さんらが「東京で昆布締め体験会を数回やり、その次段階で現地高岡にツアーの形で人を呼ぼう」などと話しているのを聞いていた若手の中井さんは「昆布締めは正月とかに余った刺身を使って母親がやっているイメージ。そういう動きがあるなら私もやってみたい」と反応していた。地元内部でもムーブメントを大きくするためにできることはまだまだある。

継続しながら模索する次なる一手

この日の会という一つのきっかけに触発されたのか、参加者たちは次々と地域の特性を生かした人を集めるアイディアを出し、語り合った。今回の高い熱量を継続させていくためにFacebook上でグループを作り、3月22日に向け配信内容と詰めるという次回の動きも決めた。このほか湯浅さんからもイベントの企画案が出たり、izuminさんから情報発信方法の参考になるようなウェブサイトを教えてもらうことになったりと、活気にあふれたまま会は終了した。

「サポート隊」でもある原さんは「自分たちの普通の暮らしを求めている人が東京など外にいることが分かった。いい出会いでした」と会を振り返る。清都さんは「今日来れなかった人で『高岡はいい』と思っている人もたくさんいると思う。そういう人たちとも組んで、住む人が増えていけばうれしい。まだ入り口に立っただけだけど、今日はいいきっかけになりました」と話した。多くの参加者が、何か新しい動きが始まる予感を抱いているようだった。

Localist Tokyoの配信では、チーム高岡は「戸出ジェラート」、戦前から続き昨年閉店した名店の味を引き継いだ「おでん 百福」、「CRAFTAN」と地元民に愛される飲食店を紹介。当日のアーカイブはこちら()から視聴できる。

 

高岡の魅力を改めて探す上で、今すでにあるものの中にも外部の人間を惹きつけるものはある、と意識を共有した一行。その「すでにあるもの」の一例として、戸出地区のまち歩きを次回記事で紹介します。

ライター:清水 泰斗

ライター。マンツーマンの日本語教師としても活動中。日本中の工芸やニッチな特産品の取材、アイヌ文化、サウナや銭湯、エスニックタウン、アンダーグラウンドカルチャー、マタギ文化などに食指。メディアもファストな時代ですが、ディティールを大切にする文章を書いていきたいです。

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