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すごい旅のハウツー

2019-01-09619 view

「関係人口として地域に関わるなら、“旅人”ということばは捨てたほうがいい」『ソトコト』編集長・指出一正さんインタビュー

観光でも移住でもない方法で、特定の地域に関わる。そんな人々を指す「関係人口」ということばを、よく聞くようになりました。
ただの旅人ではなく、自分の好きな街に一歩踏み込んで関わる「関係人口」になるためにはどうすればいいのか。これから必要とされる旅人の役割とは、どんなものなのか。「関係人口」の概念にいち早く着目した、雑誌『ソトコト』編集長の指出一正さんに聞きました。
(聞き手:新 拓也/株式会社SAGOJO代表)

「居住者」でも「旅行者」でもない人たち

新:
まずは改めて、「関係人口」って何なのでしょう?

指出:
世の中は「交流人口」と「定住人口」の2つに分けられる、というのが、長らく世間の認識になっていました。交流人口は、いわゆる旅行者的な動きをする人。定住人口は、住民票を置いている、その街に住んでいる人を表すことばです。たとえば「世田谷区民です」とか「長野市民です」とか。

ただ、それって0か100の話でしかなくて、その間の1〜99は誰も定義できていなかったんです。

新:
「観光客」でも「居住者」でもない人たちですね。

指出:
たとえばある町には、週末になるとよく足を運ぶ人がいる。観光地でもないのになんでこんな田舎町に来るんだろう?と観察していくと、友達がいるとかたまたまそこに良い出会いがあってその街のことが好きになったとか、いろんな理由があるんですよね。

そんな“街思いの人たち”は、実は住んでいる人以上に街づくりに関わっていたりする。そういう人たちがいる、ということが最近わかってきたんですよね。彼らを指すことばとして「関係人口」が使われ始めて、その総意がまとまってきたのが2018年なんじゃないかなと思います

少し前に、「つながり」ということばがすごく流行りましたよね。この「つながり」じゃ飽き足らなくなった人たちが行き着いたのが「関係」ということばだと僕は思っているんです。

「友達以上恋人未満」のような、境目にあるようなことばなんですよね。いろんな人に当てはまりやすいんでしょう。

新:
交流人口の中でも継続性がある人たち、ということですね。

指出:
大人たちは関係人口の人たちを「地域のサポーターとかファンだよね」とすぐ言いたがるんですが、のびしろ的にはプレイヤーなんですよね。

「やりたいことがあって、それを実現するために、結果としてこの場所がベストだった」というのが、関係人口として特定の地域に関わる人たちの深層心理なんじゃないかなと僕は思います。

ただ「お金を渡してサポートしたい」みたいな、オールドファッションな地域貢献のあり方どまりとはまた違うんです。

新:
「地域のために何かをしたい」じゃなくてもいいのでしょうか。

指出:
社会に対して何かを働きかける人は2タイプいます。ひとつは「社会を変えたい」という意思を持って動いている人。つまり「その町のためになることをしたい」「何らかの形で地域に貢献したい」という社会貢献の意識が元々ある人たちです。

大きな視点から入ってダイナミックに社会を動かそうとするのはそういった方々で、そっちが王道なのかもしれないですが、それよりも僕が注目しているのは「たまたまおもしろいと思ってやっていたことが、気づいたら社会性を伴ったものになっていた」という人たちなんです。

自己満足のためにやっていたことが、結果的に小さく地域を変えていたというパターンですね。僕が追いかけているプレイヤーの皆さんは、このタイプが多い気がします。

「僕は旅をするように生きたくない」

新:
最近はただ旅をするだけでなく、より踏み込んだ「関係人口」として地域に関わりたい、という人が増えている気がします。

旅人と関係人口を分けるものって、何なんでしょう?

指出:
そもそもね、「旅人」っていうことばを捨てたほうがいいですよ。

新:
……!?

指出:
というか、「旅人」ということばの持つステレオタイプを変えていったほうがいい。

旅人と呼ばれる人は“旅好き”のレイヤーに固まってる印象が強いんですよね。広く移動しているけれど、実はニッチなコミュニティになってしまっている。それだと、地元の“セカンドコンタクトの人”に会うことができない。

「ファーストコンタクトの人じゃなく、セカンドコンタクトの人にどう会うか」というのが、旅人じゃなく関係人口になるためのステップです。

新:
「セカンドコンタクトの人」とは?

指出:
会社で例えるなら、ファーストコンタクトの人は広報担当。外から人がきたときに、最初に出てくる人です。セカンドコンタクトの人は、たとえば経理担当とか事務とか、もっと会社の内部の人。

旅人の匂いがした瞬間に、「この人はきっと違う街にも行くな」とシャットアウトされてしまうかもしれない。その時点で、ファーストコンタクトの人にしか会うことができません。

たとえば、僕は今日これから島根に行くんですけど、絶対に旅人っぽい格好はしないです

たしかに、“旅人っぽさ”はない

指出:
僕は正直、旅をするように生きたくない。「各地を飛び回ってる」と言われるのもあまり好きではないんです。釣りが趣味なので、本当は家でじーっと静かに釣り針を眺めていたいんですよ、爬虫類みたいに(笑)。

スナフキン的な、一目でそれとわかるような旅人像は前時代のもの。かつては、そういう風来坊みたいなのがかっこいいという風潮がありましたけど、それはもう社会の中であんまり役割をもらえなくなったんですよね。

いろんな場所をアクティブに放浪するのが旅人のステレオタイプなら、そこはこれから変わっていってもいいんじゃないかな。なんでもない個人として地域に接触するのが、これからの旅人なのかもしれないなと思います。若い世代はもうそうなり始めていますよね。

新:
といっても、特別なスキルがないと「なんでもない個人として地域に関わる」はなかなかハードルが高い気がします。

指出:
これはちょっと参考になるかわからないですが……。

以前、長野市の「ナガラボキャンプ」というイベントでワークショップをやったとき、地元の高校生の男の子が非常に良い提案をしてくれたんです。

彼は海外一人旅が好きなんですけど、行く度に毎回困ったことが起きる。でも、いつも必ず助けてくれる人が現れる。まさに「地獄に仏」の気分。彼はその経験から、地元長野に遊びに来る人を同じように助けられる仕組みを作りたいと考えたんです。その結果できたのが、「地獄に仏ペーパー」=「To Hell Buddhaペーパー」。

……って言ってもなんのことかわからないですよね(笑)。

新:
直訳すぎる(笑)

指出:
「交番はここ」「トイレはここ」みたいなイラストが書いてあるペーパーを長野市のおじいちゃんおばあちゃんみんなに配って、誰もが海外から来た人を助けられるような仕組みを作ろう、というのが彼の提案です。

これって、旅人だからこその視点だと思うんですよ。

旅から帰って来たときに、その経験をどう自分の街や自分の好きな地域にフィードバックできるか。それを考えて提案する訓練をするといいんじゃないでしょうか。

「君が来てくれてよかった、と言われるような関係を築きたいですよね」

指出:
僕は、関係人口が増えると健康寿命が伸びると勝手に考えてるんです。

みんな“居場所と出番”を求めているんですよね。誰かと適度な関わりを持つことで、人は自分の居場所と出番の存在を再確認できる。心のストレスや虚無感が減って健康寿命が伸びる。それが僕の解釈です。

新:
居場所と出番、とは?

指出:
たとえば、「あきた森の宅配便」という天然山菜採りの代行サービスがあります。

山菜採りの名人である地元のおばあちゃんがおいしい山菜を採ってきてくれるというECです。それはたぶん関係人口の中で一番最初のステップなわけですね。

名人のおばあちゃんに山菜をとって送ってもらうのが単純にものすごく嬉しいですし、おばあちゃんたちにとっては、自分の好きな山に入って山菜を採ることがやりがいとなり、結果として社会の中での役割につながる。これは「関係人口の存在が誰かの居場所と出番を作るための方法として作用した」と言い換えられます。

「家の中で大人しくしててね、ゆっくりしててね」と言われるよりも、自分がやりたいことを社会の中で楽しく自由にやれるほうが、健康寿命は伸びると思うんです。

新:
関係人口によって、社会の中での役割を得られる人がいるんですね。

指出:
ほかにも山形市内で、2人の大学生が「郁文堂書店」さんという老舗の書店をリノベーションして蘇らせたという事例があります。

そうすると、その書店にお客さんがたくさん来るようになっただけでなく、ほぼ同時期にシャッターが閉まっていたお店も再生されていきました。若い人も山形市内に遊びに来るようになって、街に活気が戻ってきました。

書店のオーナーさんは、「いつも身のしまい方ばっかり考えてたけど、未来のことを考えるのがとても楽しくなった」と言ったんですね。

身のしまい方を考えていた地域の人が、未来のことを考えるようになった。関係人口がやってることはし評価しづらいと言われることもありますが、こんなに各地に幸せを生んでいるじゃないかって僕は思うんですよね。

新:
「その土地の人に“居場所と出番”を提供できているか」が、関係人口の一つの指標なんですね。

指出:
「有名な観光地に行ってきました」「たくさん写真を撮りました」で終わるのは、関係人口じゃなく旅人。

でもそれじゃあみんな、もう飽き足らないわけでしょう。

旅先での新しい人との出会いを通して、その旅先とも関わりを深めた方がおもしろいじゃないですか。おいしいものを食べたり写真撮ったりして終わりじゃなくて、「君が来てくれてよかった」「あなたがいてくれて助かった」って言ってもらえるような、肉声の交換みたいなのがあった方がいい。

新:
本当に、そう思います。

指出:
「旅をする」って、人の気持ちを湧き立てるもので、いつの時代もたくさんの人がその行動を起こしていますけど、その割には価値観のアップデートがない。

「旅人」とまとめるのではなく、地域にしっかり関わってコミットしたい人たちと、ふらっと放浪したい人たちを、ことばで分けちゃったほうがいいと思います。

新:
いろんな関係性ごとに、それぞれの名前があるといいのかもしれないですね。

指出さん、今日は貴重なお話をありがとうございました!