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すごい旅の話

2016-10-171830 view

「今、旅に出ないと一生後悔する」20代最後、“世界一周×仕事”への挑戦|灯台もと暮らし編集長・伊佐知美

29歳。世界を旅しようと決めた私が、最初に向かった国はマレーシアだった。

会社員だった頃、毎年少しずつ、少しずつ一人旅を重ねたアジア。行ったことがない国の大都市の中で、もっとも惹かれたのがクアラルンプールだった。

と言えば聞こえはいいけれど、結局のところ私は恐かったのだ。

行ったことがない長期の旅。ひとりで。しかも、日本で請け負った仕事をしながら、旅先で取材もしながら。

言葉は? お金は? 泊まるところは? 仕事はどこでするの? っていうか、本当にできるの? そんなこと。私、SIMカードとかも、ぶっちゃけよく分かんないし。

Wi-Fiを拾って旅をすると決めた。レンタルWi-Fiを借りるには、範囲が広すぎたし、コストもかかりすぎた。

クアラルンプールなら、きっと発達している。突如、ひとりで異国の地に降り立ったとしても、野垂れ死なない。「すっ」と旅に入っていける。

ドキドキしながら乗った羽田発の飛行機。さよなら日本、私が生まれた国。大好きなひと、家族、仕事、諸々。……そんな感傷的なかんじで旅立つつもりだったのに、出国ゲートをくぐった瞬間、私の頭にはこれからの「旅×仕事」の毎日へのワクワクだけが残った。

旅をしながら書き仕事をする。それは、私が小さい頃から描いた「夢の形」そのものだった。

***

世界各地のAirbnbの宿で、ホテルのロビーで、カフェで、コワーキングスペースで。時には海と青空を見ながら、観光地の階段や、世界遺産の街の小さな日陰、国と国をつなぐフェリーの上で(少し酔いながらも)、パソコンに向かった。

店の人とは、Wi-Fiのパスワードを聞くために大抵会話をした。

※海外ではパスワードは聞かないと分からないことが多い。余談だが、ミャンマーでは1時間ごとにパスワードを変える飲食店に出会った。なんでそんな頻繁にパスワードを変える必要があるのだろう……。未だに分からない。

街中の普通の飲食店で、パソコンを開きながらパスワードを聞き、原稿を書いたり、写真編集をしたり。景色に脇目も振らず作業に没頭する異国からの来訪者・一人旅・しかも女性は、きっと謎に映るのだろう。みんな、興味を持って話しかけてくれた。

「何をしてるの?」

「一人旅?」

「どこから来たの?」

必ず誰かと、話をしていた。だから、ちっとも寂しくなんてなかった。

インドで、イギリスで、クロアチアで、フィンランドで。

そういえばオーストリアでは、一方的にキスをしそうになったこともある(語弊があるが)。

***

「君が書いているその文字は、いったい何?」

私が店に入ってから知らんぷりを決め込んでいた、きっと普段は客との距離を適度にとると決めている男性の店員。気がつくと15センチの距離まで詰め寄ってきていた。

視線の先には、11インチのMacBook Airの画面。とそこに打ち込まれている、ひらがな、カタカナ、漢字、数字そのほか諸々が混ざる、私の原稿。

目の前にはハルシュタットの壮大な山と湖の景色。眼下には、世界でもっとも美しいといわれる湖畔が広がっていた。

「呪文か?」

続けて真顔で、そう言った。

答える前に、なぜか「その気になればキスができそうな距離だな」とくだらないことを思った。キスの代わりに、「日本語。初めて見ますか?」と答えてみる。

「Amazing……日本語で“驚いた”って何て言う? 君は何者? 何してる?」

彼が運んできてくれたビールを一口飲む。そして旅の最初に訪れた国・マレーシアで聴いてから気に入っている、「love yourself」のYoutubeの音を止めてイヤホンを外す。

そこから、しばしのドイツ語(オーストリアの公用語)と日本語の教え合いが始まった。すぐに他の店員も集まってくる。

ハルシュタットの街で一番美味しいお店はあそこ。土産なら「Drechslermeister」という工房がセンスがいい。僕らはこの土地で生まれた。家はハルシュタットの街から20分ほど車で行った先。毎日、この山の上のカフェ・レストランに通勤するため、ロープウェーに乗っている。

そんなことを、話してくれた記憶。

「この景色が日常なのね。うらやましい」と私は言った。

「君のほうが。僕らだって、できるものなら」と彼らは遠くを見て言う。

「できるものなら、あの山の向こうへ行きたい」

***

8ヶ月という長い期間、ライターという仕事をしながら、世界をめぐる。

そうね、私もこれ、ずっと夢だったの。

たった10数年前、ひとりでカナダ・バンクーバーを訪れた時は、まだインスタントカメラが主流だった。カチカチ、と巻いて撮る、景色と友だち。

2年半前までただの出版社のアシスタントだった。その前は金融業界の営業職。時代も変わるし、私も変わる。「書くのが好き。旅をしながら仕事がしたい」その一心で、27歳の時にライターを目指した。

今はどの国を旅しても、どこで仕事をしても、Wi-Fiがあれば問題ない。同じ音楽が聞ける。同じ、日本語の記事が書ける。

なんて幸せなんだろう。決して当たり前じゃない。

iPhoneを失くしたり、国際病院に駆け込んだり、フェリーに乗り遅れたり、一人で夜道で転んだり。もちろん上手くいかないこともたくさんあった。そして今思えば、旅に出ると決めたことで、失ったものも、きっとある。

でも私は、どうしても、20代最後にこの働き方に挑戦してみたかったのだ。

気の向くままに、どこへでも。世界地図を広げて、次の行き先を決める。好きな場所に、好きなだけ。そして仕事をしていく。取材をして、記事を書いて。

次は、恋もできたらいいな、と思う。

旅も仕事も夢も、恋も。欲張りだけど、欲張ってはいけないなんて、どこの誰が決めただろう。

一歩踏み出せば、きっと違う世界が見える。さて次の旅先は、人生初のオセアニアだ。

(文、写真:伊佐 知美

ライター:伊佐 知美

1986年生まれ、新潟県出身のライター・編集者。旅が好きすぎて2016年4月から世界一周へ。㈱Waseiに所属したままリモートワーク中。『灯台もと暮らし』編集長、オンラインサロン「編集女子が”私らしく生きるため”のライティング作戦会議」主宰、ことりっぷWEB連載「伊佐知美の世界一周さんぽ」など。2016年人生デザイン U-29(NHK)出演。2017年に書籍『移住女子』を出版予定のため、現在鋭意執筆中。

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