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<特集>北海道上川町

2021-12-24

神に捧げる酒。『上川大雪酒造』が目指す日本酒造りとは

北海道の北部に位置する「上川町」を紹介するこちらの連載。第1回目は、神々が遊びに来るほどの紅葉をご紹介しました。第2回目となる今回は、上川町で新しい試みをはじめた『上川大雪酒造(かみかわたいせつしゅぞう)』の日本酒造りをご紹介します。

今回も青森県出身の人気インスタグラマーでフリーランスタレントの平沼日菜子(かなこ)さん(@risu_kana_)と一緒に、上川町へお邪魔してきました。

今、北海道で酒造りが盛んなワケ

今、北海道ではワイン・クラフトビール・クラフト焼酎など、酒造りが非常に盛んに行われています。ワインに至っては「ワイン特区制度」の影響もあり、この10年でワイナリーの数が2.5倍に増えました。同様に日本酒の酒蔵も増加傾向にあり、2021年時点で16の蔵が北海道にあります。

一体なぜ、北海道でこれだけの酒造りが行われるようになったのか? それは、温暖化の影響がもっとも大きいようです。高すぎる気温や安定しない風雨の影響を受け、思うような味を出せなくなった本州の蔵元が、蔵ごと北海道に移転してくるケースも増えているのだそうです。

北海道には大雪山系のおいしい水があり、温暖化の影響を受けているとはいえ、日本の中では寒暖差のある気候が好影響となり、酒造りに適した地域となったわけです。一方で、多くの蔵元が集まればそれだけライバルも多いということ。特色ある酒造りが求められています。

目指す酒造りは「当たり前のことを、当たり前のように」

上川大雪酒造による上川町初の酒造りがはじまって5年。純米酒のみを造り続けている『上川大雪酒造 緑丘蔵(りょっきゅうぐら)』(以下、上川大雪酒造)では、オンラインショップでも購入できるレギュラー商品のほか、上川町まで足を運ばないと購入できない『神川』など、多彩なラインナップを揃えています。

そこには、すでに町の将来を見据えた酒造りの軸がありました。

お話を伺ったのは、杜氏の小岩 隆一さん。上川大雪酒造の立ち上げ時から携わっているそうです。

「コンセプトは3つ。近隣町村の酒造好適米と、上川町の水を使用すること。醸造用アルコールを添加しない純米酒を造ること、少量小仕込みによる吟醸造りを徹底すること。当たり前のことが当たり前にできる酒造りがしたいですね」。

「当たり前のこと」。それは、小さな酒蔵だからこそできることであり、そしてやらなければならないことでもあるように感じられました。小岩さんの杜氏としての強い決意のようなものが伝わってきたのです。

若いパワーで地域の活性化を目指す!

伺ったときはちょうど酒造好適米を蒸し上げているところでした。

何度もにおいを嗅ぐような仕草をされていたので、においで炊き上がりがわかるのですか? と素人丸出しの質問をしたところ、「炊飯器でお米を炊いても良い香りがしてきますよね。あれと同じですよ」と優しく教えてくださいました。

とはいえ、香りを嗅いでも素人には米の炊け具合はよくわかりません。何年も経験を積んでこその職人技が随所に見られ、杜氏は五感をフルに使う奥深い職業なのだということを痛感させられました。

蒸し上がったお米がこちら。酒造好適米と言って、日本酒造りに適した専用の品種があるのだそうです。食べるお米よりまんまるで、光が当たるとキラキラと輝きとても綺麗なお米でした。

今回は特別に、蒸し上がったお米を掘り出す「蒸取り」という作業を体験させていただきました。

「お…、お、重い……!」

普段、元気いっぱいニコニコ顔の平沼さんが本気の顔になってしまうくらいの重労働。「この作業を、高校を卒業したばかりの女の子もやられているなんて……!」

そう、ここ上川大雪酒造で働く人たちは、蔵人も杜氏もみんな若い方ばかり。フレッシュなエネルギーに満ちています。

「お酒を飲めない年齢の子もいますからね。小さな蔵を少人数体制で運営しているので、瓶詰・出荷・事務作業・売店販売・営業など、一人で何役もこなさなければならない大変さはありますが、日本酒造りのすべてに携われる楽しみもあります」と、小岩さん。

上川大雪酒造は若い人の雇用に一役も二役も買っているようです。「私は旭川市から通っていますが、上川町は鹿やキツネといった野生動物が人口より多く感じます。空気が澄んでいて、春から夏にかけては肉眼で天の川を見ることができるほどです」

仲間とチームになって一緒にもの作りをしたい方、自然に囲まれて暮らしてみたい方は、上川大雪酒造の門を叩いてみてはいかがでしょうか?

地元から愛される「飲まさる酒」を

こちらは「蒸取り」の後におこなう「放冷」という作業。たった今蒸し上がったばかりのお米の温度が均一になるよう、手作業で混ぜ続けます。

当然ですが、普通の人なら熱くて触ることもできないはず。大きな酒造会社なら、この時点で何らかの機械を使っているかもしれません。手間暇を惜しまず、すべての作業を手作業で。それが上川大雪酒造の酒造りであり、地域に愛される地酒を造ることが、地方創生の第一歩と考えているそうです。

「上川大雪酒造が造りたい酒は、“飲まさる酒” なんです」

筆者は北海道出身の道産子なので、“飲まさる” の意味がわかります。「~さる」「~しささる」というのは北海道弁で、「意志に関係なく○○してしまった」という場合によく使われる言葉です。

飲まさる酒、それはつまり「美味しすぎてついつい飲んでしまう」「飲み過ぎてしまうほど美味しい酒」という意味でしょう。単においしい酒を造りたいというだけではなく、道民に愛される地域に根ざした酒造りをしたいという熱い想いが感じられる言葉です。

シンボルマークと酒の名に込められた想い

シンボルマークの五角形は、大雪山の「大」の字や雪の結晶、美しいアイヌ文様などをモチーフにしてデザインされています。日本酒の味の決め手となる五味(甘・酸・辛・苦・渋)も表しているのだそう。シンプルだけど奥が深い、そんなデザインに仕上がっています。

上川町と愛別町でしか販売していない『神川(かみかわ)』は、入手困難と言われるほど人気の地域限定純米酒。上川町で神川とは……深い意味が込められていそうです。

「日本遺産に認定されている上川町の大雪山は、アイヌ語で『カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)』と呼ばれており、上川町の人はカムイ(神)とともに生きてきました。
また、日本酒とは元来、神様に捧げる神聖なお酒です。目に見えない微生物たちの働きによって醸される日本酒の醗酵は、昔の人にとっては摩訶不思議な現象だったろうと思います。その微生物を人の手で川の流れのように目的の酒質へと導いていき、多くの人たちに口福を感じてほしいという思いを込めています」と、小岩さん。あまりに深い思いに感嘆してしまいました。

平沼さんは「青森にも美味しいお酒はたくさんありますが、酒蔵まで見学させていただきぜひ実際に味わってみたいと思いました。日本酒は好きですがあまり強い方ではないので、大切にゆっくり少しずつ味わいたいです」。青森の地酒と比較してみたいと興味津々な様子でした。

後日筆者も、この貴重な純米大吟醸『神川』をいただいてみました。40%まで精米しただけあって、甘さが口いっぱいに広がり、とても香りの良いお酒でした。後口がスッキリしているので甘すぎることもなく、おつまみがなくてもどんどん飲んでしまう、まさに “飲まさる酒” に違いありませんでした!

酒造りの喜び、杜氏としてのやりがい

時折、搾ったばかりの舟口を唎酒した際に、心の底から素晴らしく感動するような日本酒に出会うことがあるのだそう。まさに川の流れのように、微生物の働きを人の手で導き、目的の味にたどり着けた “神川” というわけですね。

小岩さん:「それはもう何ものにも代えがたい体験で、酒造りに従事していて良かった、杜氏という役職についていて良かったと思える瞬間です」

『神川』が地域限定販売であるのには理由があります。単に小さな酒蔵で手が回らないというわけではなく、上川町に来る目的のひとつでありたいという意味があるのです。わざわざ買いに行きたくなる酒、買ったらついつい “飲まさる酒”、そんな日本酒を、ここ上川町で造っていきたいのだそうです。

わざわざ足を運んでもらうために

酒蔵を訪れる楽しみといえば、試飲や酒蔵見学もそのひとつ。

少数精鋭で酒造りを行っている上川大雪酒造では、残念ながら衛生管理上の問題で蔵内の見学はできませんが、なんと、外から覗くことができるのです! 動物園と同じ発想です、と小岩さんは笑っていらっしゃいましたが、日本酒が本当に好きで「造っているところをぜひ見てみたい」という方には嬉しいオプションなのではないでしょうか。

日本酒造りといってもいろんな工程があります。今どんな作業をしているのかを予想しながら見学してもおもしろいかもしれませんね。

酒造りは10月~翌7月の期間に行われます。積雪の多い時期は雪で窓が埋もれて見学できないこともあるそうですが、基本的にはいつでも自由に見学して良いそうです!

酒蔵のすぐ横には、ギフトショップも併設しています。特別純米、純米吟醸、純米大吟醸のレギュラー商品のほか、ショップ限定のお酒や酒粕を使用した甘酒など、豊富なラインナップが揃っています。試飲は行っていませんが、味の好みを伝えてあなたの “飲まさる酒” を見つけてもらうと良いでしょう。

店内はまるで美術館のような雰囲気で、手ぬぐいや酒器などの和風小物も販売しています。ぜひ手に取って、ゆっくりとお気に入りを見つけてみてください。

上川町とともに歩んでいく上川大雪酒造

上川大雪酒造のチャレンジも5年が過ぎようとしています。酒蔵のなかった上川町で地酒を造り、若者の雇用を生み、酒のブランド名とともに上川町の名を知らしめていく。そんな新しい風を吹かせたことは間違いありません。JAL国内線のファーストクラスに何度も採用された実績を持つまでに成長した “飲まさる酒”、ぜひあなたも試してみてくださいね!

次回は、初心者から上級者まで楽しめる、至れり尽くせりのキャンプ場をご紹介します!

<上川大雪酒造 緑丘蔵/ギフトショップ>
住所:北海道上川郡上川町旭町25番地1
電話:01658-7-7380
HP:https://kamikawa-taisetsu.co.jp/
ショップ営業時間:10:00~16:00(夏季)10:00~15:00(冬季)
ショップ定休日:不定休

(撮影:松浦靖宏)

この記事はサマージャンボ宝くじの収益金を活用して作成しています。

ライター:月夜野

カメラマンの夫とともに年間100泊近い出張&プライベート旅行をしながら旅するように暮らしています。デザイナー/ディレクター/トラベルライター/動画クリエイター/北海道インフルエンサー/26ヶ国・47都道府県・道内179市町村を旅しても、まだまだ旅足りない毎日。

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