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すごい旅のハウツー

2016-07-221425 view

旅の社会的価値を上げるために。「旅するパティシエ, 旅する本屋」に聞く、“キャリアアップの旅”

旅行情報誌の編集者、NPO法人東北開墾を経て独立。現在は「旅するパティシエ, 旅する本屋」というプロジェクトを夫婦で運営しながら世界を旅している鈴木ヒデツグさん。自己アピール・自己満足で終わる旅とは一線を画す「キャリアアップの旅」は、どのような方法で実現されたのでしょうか。企画に至る背景や秘訣を書いていただきました。

パティシエ&編集者の夫婦が発信する、「世界の郷土菓子を巡る旅」

こんにちは、鈴木ヒデツグです。
2016年1月から、妻と一緒に「世界の郷土菓子を巡る旅」というテーマの下、世界一周の旅をしています。

パティシエの妻が、世界各地の人々と一緒に、現地の郷土菓子を作りながら、その土地の文化や歴史、人々の暮らしなどを取材。その内容を編集者の私が、撮影・執筆・デザインをして、旅先で誌面を制作。その都度デジタルブック化して、オンラインで情報発信しながら、夫婦で旅を続けています。

『旅するパティシエ, 旅する本屋』

そして、その取材内容を元に、料理を作る人・食べる人をつなぐマッチングサービス「KitchHike」と連携しながら、彼らの運営するメディア『KitchHike MAGAZINE』で連載。


そんなシゴトをしながら、旅しています。

旅の経験をキャリアに還元する"キャリアアップの旅"

元々、結婚してから二人で長い旅に出ることは、私たちの夢でした。でも、決心するまでに実はけっこう悩んで。というのも、なんていうか……「旅人」ってバカっぽくないですか? (苦笑)

貧乏旅行の限界に挑戦したり、世界各地でコスプレ姿の記念撮影をしたり、様々なテーマで、いわゆる世界一周の旅をされている方がいますよね? 正直、そういった身を削るネタで注目を集める旅人に対して、懐疑的な思いを抱いていたんです。

もちろん、旅の楽しみ方は人それぞれだと心から思っています。でも、キャリアを中断して長期の旅をするというのは、日本社会の中ではかなりのハンディを背負うことになります。そのリスクを負ってまでやるようなことかな? と、私たちは思っていて。

では、自分たちはどんな旅がしたいのか?

そう考えたときに二人で出した結論が、“キャリアアップの旅”でした。自分たちがこれまで培ってきたことを旅の中で活かし、その経験を、帰国後の自分たちのキャリアに還元していく。

その考えの下に、妻はパティシエ、夫は編集者というそれぞれのキャリアを踏まえ、自分たちの旅のテーマを具体化したのが「世界の郷土菓子を巡る旅」でした。

「スイーツ・ストーリーテラー」になりたい|妻・鈴木あやの場合

妻の目標は「スイーツ・ストーリーテラー」になること。

パティシエの王道のキャリアアップといえば、技術を競う大きな大会に出場して、賞を取り、そして自分の店を持つ…というのが一般的です。

しかし、ちょっと生意気ですが、妻はそういったことに全く興味がないのです(笑) 美しさや華やかさはもちろんスイーツには大切ですが、あまりにもそれが求められすぎて、そして偏重していく、今の業界の流れに疑問を感じていると。

それよりも、使われている食材の物語であったり、そのお菓子が誕生した歴史・文化であったり、ただ技術をひけらかすのではなく、そういった背景も語れるパティシエでありたい。

それがつまり「スイーツ・ストーリーテラー」であって、それを目指す以上は、世界各地の郷土菓子を現地で、実際に見て、実際に作る必要がある……と、彼女は考えています。

旅の社会的価値を向上させたい|夫・鈴木ヒデツグの場合

一方で、私の目標は「旅の社会的価値を向上させる」こと。

「旅」って、単なる物見遊山というだけでなく、クリエイティブの源泉になったり、ときには人生を大きく変えてしまったり、「遊び」以上の価値があると思うんですよね。

しかし、残念ながら日本では、そのような認識はまだまだ一般的ではないし、ツーリズム(観光事業)の観点でみた場合も、社会的な価値はまだまだ低い産業だと思うんです。

だからこそ、旅の価値向上につながる事業を創っていきたいと考えていますが、そもそも自分自身で「旅の社会的価値」を表現できなければなんの説得力もないので、まずは一プレーヤーとして今回の旅のシゴトを通じて、それを証明していきたいと考えています。

「娯楽産業」としてだけでなく「平和産業」へ

旅は、「遊び」としてだけでなく、「学び」。ツーリズムの観点でいえばその役割は、「娯楽産業」としてだけでなく、「平和産業」。

戦争反対! と、タイコを叩いて騒ぐだけの理想主義的な活動や運動などとは違って、ツーリズムは経済的にも政治的にも、平和で豊かな社会作りに具体的に役立つ仕組みだと、私は考えています。

実際に、ツーリズム先進国であるフランスのバカンス制度の事例や、江戸期の日本の旅文化がもたらした当時の政治的・経済的効果の史実を知れば、それは疑いようのない事実だとわかると思います。

過去にはカンボジアの小学校に、学校給食としてスイーツを作りに行った旅の経験も

しかし前述のとおり、残念ながら現代の日本では、ツーリズムはそのようには機能していないし、また、一般的な認識ではありません。私は元々、旅行情報誌の編集者をしていたのですが、その際にそれを痛切に感じました。

出版社勤務時代は、新しく誕生した施設や流行りものを追いかけては、表面的な情報発信と薄利多売に終始せざるを得なかった。つまりそこでは、大量生産・大量消費社会の中で、安易にツーリズムの「娯楽産業」の側面を助長し、結果、自分たちの首を絞めていく旅行業界の姿を目の当たりにしたんですよね。

旅行業界最大手の会社だったのですが、日本のツーリズムをリードする企業がこれじゃダメだなと思い、結局退職してしまいました。しかし、もちろん旅行会社の責任は大きいと思いますが、一方でそれを消費し続けてきた旅行者の側、つまり旅人にも問題があるのでは、と私は考えています。

「自己アピールの旅」から社会的価値は生まれない

「旅人の問題」とはつまり、旅人がこれまで「旅の価値」を社会に証明してこなかったことに問題があるのではないか、と。

前述のとおり、ユニークなテーマで旅してきた方、旅している方はたくさんいます。でもその多くは、いかに節約するかの旅だったり、コスプレで記念撮影をする旅だったり、「旅の価値」を表現するというよりも、あくまでも「自己アピール」ですよね。言い換えれば、「自分探し」や「武勇伝づくり」の類いだと思うんです。

そこに「社会的な価値」が生まれるかといえば、やはりその可能性は限りなく低い。なによりも、先進国生まれという偶然のアドバンテージの下、生存実感を得るために旅を利用するような旅人ばかりでは、いつまでたっても日本に旅が「文化」として根付くことはないのでは?

そんな想いがあって、語弊を恐れずにいえば、“旅の偏差値が高い”旅人を育てるような事業が必要だと考えるようになりました

関西大学の研究を基に、旅×建築をテーマとした旅カルチャー誌を発行

そして出版社退職後は、NPOのスタートアップで事業創りを学び、出版レーベルを立ち上げて旅カルチャー誌を発行したり、SAGOJOの事業開発に携わったり…といったシゴトをしてきました。

しかし前述のとおり、どんなに仕組みを作っても、そもそも自分自身で「旅の社会的価値」を表現できなければ説得力もないだろうという思いが強くなり、一プレーヤーとして“旅をシゴトに”を実践しようと決めました。

旅をシゴトにするための3つのポイント

①「自分をみせる」ではなく、「世界をみせる」

ただ思い出作りとして日記に綴りたいだけ…というのであれば、もちろん「自己アピール」の旅でもよいと思います。でも、もし“旅をシゴトに”するのであれば、「自己アピール」を価値に変えられるのは著名な芸能人くらいなもの。世の中の多くの人が知りたいのは、「あなたのコト」ではなく、「世界のコト」です。

キューバの首都・ハバナでの、パティスリー取材の一幕

あくまでも「自分をみせる」ではなくて、「世界をみせる」という視点でなければ、自分の旅の経験を社会的価値に変える、つまりシゴトにすることはできないと思います。

実際に私たち夫婦のブログでも、旅の「日記」で個人的な思い出を綴っていますが、当然ながら、クライアントに納品する「記事」とは、明確に書き分け、棲み分けをしています。

②自分の旅を、「自分にしかできない表現」で

旅人の中には、何カ国訪ねたとか、何年旅を続けているといったことをストロングポイントとして発信している方も見受けられます。しかしそれは、お金と時間さえ作れば誰にでもできること。

それよりも、自分の特技・特長を活かして、自分ならではの視点で世界を切り取らなければ、やはりそこに社会的価値は生まれません。

例えば、話題沸騰中の写真家・ヨシダナギさん。彼女は、アフリカの少数民族への飽くなき興味、そして彼らを訪ねる旅を、写真という自分の特技で、自分にしかできない表現で発表したからこそ、社会的な評価を得ました。

「SWEETS TRAVEL BOOK」と題して、旅をしながらデジタルブックを発行している

私たちの場合は、世界の郷土菓子のストーリーを、パティシエがインプットし、編集者がアウトプットするという、私たち夫婦にしかできない表現をすることで、その価値をお金に変え、そして、今後のキャリアップにつながるような、“旅をシゴトに”することができました。

「写真家にパティシエ、編集者……それって、専門業の人にしかできないってことでしょ? 」と思ったアナタ、そんなことありませんよ!

例えば、海外で働くことを夢みて、海外で活躍する日本人を取材したり、NGOの活動の現場を取材したり…といった方々もいます。

そういった方は、読者に役立つ情報だという評価を得て、専門業ではないにも関わらずライターとしてメディアからの執筆依頼が届いたり、将又、企画自体にスポンサーがついたりといったケースもあります。

「自分ならではの視点」の軸さえしっかりしていれば、「自分にしかできない表現」は後からついてくることだって有り得る、ということですね。

③大事なのは、「旅するコト」ではなく「旅で得たコト」

今現在、自分自身が世界一周中の身でありながらこんなこと言うのもなんですけど、「世界一周」という言葉は、正直あまり好きではないんです。シゴト上、「世界一周」という表現を使うメリットがあるだけで、実はその意味にはあまりこだわっていません。

旅の楽しみ方は人それぞれといえど、要はその醍醐味って、訪ねた地域のモノ・コト・ヒトとどれだけ向き合えるかにあると思うんです。そのためには、世界を“一周”しようが、“半周”しようが、“1/4周”しようが、結局のところは結果論でしかない。

世界を“一周”すること、言い換えれば「旅するコト」自体を目的としてしまうと、それって結局、旅してないんじゃないの? と思うんです。もっと言えば、ただ「世界一周」したくらいでは、社会的価値は生み出せない、ということ。

ボリビアの首都・ラパスで、現地の郷土菓子の作り方を教わっている様子

大事なのは、「旅するコト」ではなくて、「旅で得たコト」。そしてそれを、社会という土俵の中で、「自分のモノ」にしていくことは、もっと大事。

このマインドセットが、“旅をシゴトに”する上で最も重要なことだと、私は考えています。

旅人へのメッセージ|旅を「文化」に昇華させるために

繰り返しにはなりますが、一人一人の旅人が、旅の社会的価値を証明していくことが、「遊び」としてだけでなく「学び」、「娯楽産業」としてだけでなく「平和産業」、そして「文化」まで旅を昇華させると信じています。

そのためにも、SAGOJOで“旅をシゴトに”する旅人が、これからますます増えていくことを心から願っています!
 

「旅するパティシエ, 旅する本屋」プロフィール

鈴木ヒデツグ
幼少期をオランダ・イギリスで過ごした経験から、ツーリズムを生業にすることを決意。旅行情報誌の編集者として出版社に7年間勤務した後、退職。その後、NPO法人東北開墾の創業に参画、『東北食べる通信』の創刊に携わる。独立後は、旅カルチャー誌の発行や、旅の事業開発に取り組み、2016年から“旅をシゴトに”しながら世界一周中。

鈴木あや
広尾のパティスリー、ペニンシュラホテルのフレンチレストランなどで修行を積んだ後、会員制レストランにてシェフパティシエに就任。「国と国、人と人とを つなぐスイーツ・ストーリーテラー」になることを目指し、2016年からは“旅するパティシエ”として、各地の郷土菓子を発掘しながら世界一周中。

ライター:鈴木 ヒデツグ

幼少期をオランダ・イギリスで過ごした経験から、ツーリズムを生業にすることを決意。旅行情報誌の編集者として出版社に7年間勤務した後、退職。その後、NPO法人東北開墾の創業に参画、『東北食べる通信』の創刊に携わる。独立後は、旅カルチャー誌の発行や、旅の事業開発に取り組み、2016年から“旅をシゴトに”しながら世界一周中。

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