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すごい人生

2021-03-18

やりたいことの先に移住という選択肢を。余白のある町、奈良県 吉野で感じた居心地の良さ<蓮池ヒロさん>

奈良県、三重県、和歌山県の3県にまたがる紀伊半島は、山・川・海に囲まれた紀伊山地が大部分を占める自然豊かなエリアです。

今回、紀伊半島の「奈良県 吉野町」「三重県 尾鷲市」「和歌山県 田辺市本宮」を中心とした「移住・多拠点暮らしコミュニティ in 紀伊半島」のプロジェクトが始まり、現地の滞在体験と新しい暮らしを考えるワークショップが行われました。

プロジェクトには移住や多拠点生活を考えている旅人が約30名集まりました。今回は、吉野を訪問し、多拠点生活における考え方をアップデートできたという蓮池ヒロさんに、現地でのお話を伺いました。

フォトグラファー、ライター、潜水士、どこでも働けるからこそ拠点が欲しい

ダイビングが好きだからと住んでみた沖縄で撮った、平成最後の日の水中写真

普段は、フリーランスのフォトグラファー・ライターとして静岡で活動されている蓮池ヒロさん。趣味のダイビングが仕事につながり、ダイビングメディアでの執筆や水中撮影をすることもあるそうです。フリーランスになって3年。どこでも働けることを武器に、多拠点生活の拠点となる場所を探しています。

ーー 多拠点生活に興味を持ったきっかけは?

蓮池:最初に多拠点生活をしてみようと思ったのは、フリーランスとして独立後、しばらく経ってからでした。フリーランスは自分次第で働き方や事業を変えていけるので、働く場所を選ばないスキルを育てていけば、多拠点生活も可能だろうと。それまでは会社員だったので、多拠点生活や移住を実現できる人は高度なスキルと才能の持ち主かお金持ちにしかできないことだと思って、自分には関係ないと考えていました。

 

でも、会社員として働いていく中で、今の仕事と今後の暮らしがどうしても結び付かなかったんです。その違和感が段々と強くなってきて会社を退職し、縁があってフリーランスという働き方を選びました。そのときに出会った人たちと話していくうちに、多拠点生活や移住は特別なことではなく、工夫して実現している人はいくらでもいると知りました。それで、自分もやってみたいと思うようになったんです。

ーー 移住や多拠点生活を考える上で、拠点の候補地は?

蓮池:元々、海外に住んでみたい気持ちはありました。独立後には国内外問わず、様々な場所で1〜数ヶ月程度のお試し移住のような滞在をしていました。

その中でも特に気に入った場所が、スペインのバルセロナでした。2020年にはワーキングホリデービザを使って、バルセロナで暮らしながら拠点を作ることを考えていたんですけど、コロナの影響でバルセロナ行きは一旦やめることにして。それなら、まずは国内で拠点にしたいと思える場所を探してみようと思いました。

吉野川沿いの吉野町の街並み

ーー 多拠点生活の魅力とは?

蓮池:ルールや制限を押し付けられる生活があんまり好きじゃないんです。生まれた場所や働く場所など、人にとって重要な場所はいくつもあると思いますが、その場所に縛られながら生きる必要はないと思っていて……。

多拠点生活は、自分の好みやペースで住む場所を決められるのが大きな魅力ですね。

ーー ダイビングをされるなら海の近くとか、島が合ってるのかなと思いますが……。

蓮池:そうですね。実は沖縄本島の那覇に2019年から1年間ぐらい住んでました。でも、実際に住んでみると、好きな部分と合わない部分が出てきて。やっぱり暮らしを体験しないとわからないこともありますよね。ただ、自分が住む場所に何を求めるのかは段々わかってきました。

最近はダイビングだけでなく、他のアウトドアも色々始めたんです。登山やキャンプ、バイクなどが好きになってきたので、海や山、川など様々な自然にアクセスできる場所が良いですね。

奈良県吉野町でアップデートされた、多拠点生活の考え方

しいたけの原木を運ぶ作業は凄くハード。翌日、全身が筋肉痛に

ーー 今回のプロジェクトに参加した理由は?

蓮池:いずれバルセロナを拠点の一つにすると想定して、国内の拠点を探していたときに、今回のプロジェクトを見つけました。

関東では東京や千葉に住んでいましたし、写真を撮りに近隣の県にもよく出掛けていました。なので、次は住んだことのないけど、旅行で訪れたときに雰囲気が気に入った関西や瀬戸内、紀伊半島あたりに住みたかったんです。多拠点生活や移住を考えている参加者が集まるコミュニティも作られるとのことだったので、情報収集も兼ねて、参加を決めました。

ーー 3つ拠点があった中で、吉野を選んだ理由は?

蓮池:ダイビングで、紀伊半島の海側には行ったことがあったんです。最近まで沖縄に住んでいたし、吉野のような海がない町の暮らしを体験してみたかったので、今回は吉野を選びました。

ーー 吉野での滞在体験は?

蓮池:吉野には4日間滞在しました。その間、ゲストハウス「三奇楼」を拠点に過ごしました。「三奇楼」の離れ「三奇楼 デッキno下」をワークスペースとして使い、さらに同じ建物内に「TENJIKU吉野」があるので、そちらに寝泊りしました。

吉野町関係案内人として、今回の滞在をサポートしてくださった地域おこし協力隊の菊地奈々さんが、吉野に暮らす様々な人を紹介してくれたので、住んでいる人の生の声も聞くことができ、濃い時間を過ごせました。

ーー 吉野ではどういった活動をされましたか?

蓮池:吉野でまずやりたかったのが、農業体験でした。吉野で8年、しいたけ農家を営む「新鮮しいたけ おかもと」の岡本隆志(たかし)さんをご紹介いただき、しいたけ栽培のお手伝いに取り組みました。今ではかなり少なくなってしまった、原木から椎茸を育てている農家さんです。

冗談を交えて楽しく説明をしてくれるが、しいたけを見つける眼差しは真剣そのもの

原木は手間がかかるため、多くの農家では菌床栽培でしいたけを育てています。しかし、強い意思を持って、原木での椎茸栽培を続ける姿を見られたことは貴重な経験になりましたし、何と言ってもお手伝いの後にいただいた椎茸がとても美味しくて。

原木を運ぶ作業だけでも大変でしたが、あの椎茸の味を知ってしまうと、その苦労があってこそだよな、と思えるような時間でした。

ーー その他にも現地の人と話したりしましたか?

蓮池:農業体験に加えて、吉野に移住してきた人や多拠点生活をしている人の話を聞くことも今回の目的だったので、吉野と神戸の2拠点生活をされている「アトリエ空 一級建築士事務所」の澤木久美子さんにお話を聞くことができました。

澤木さんは、やりたいことに取り組んでいたらいつの間にか多拠点で活動するようになっていて、吉野と神戸を行ったり来たりしている方だったんです。

こばし餅店のやき餅を食べながら色々と質問。まさかの同郷でした!

澤木さんとのお話の中で、私は今まで、多拠点生活の目的が拠点探しになっていたと気付かされました。場所に縛られない生き方が多拠点生活ならできる、という魅力を感じながらも、場所探しを目的にすることで、むしろ拠点を決めることに囚われていたように思います。

やりたいことをやる、その先に自然と自分の拠点ができている、といった流れは考えておらず、まさに目から鱗の体験でした。今後は単なる場所探しに注力するのではなく、自分にとって自然で無理のない形での拠点探しを進めていきたいと考えています。

朝日に照らされる吉野川

ーー 吉野に滞在した感想は?

蓮池:「山に囲まれた町_というイメージ通りでしたが、特急電車が通っていることに驚きました。約1.5時間はかかりますけど、大阪市内から電車に乗って、乗り換えなしで今回滞在したTENJIKU吉野の最寄駅となる「大和上市駅」まで行くことができるんですよね。

吉野からは、とにかく「居心地の良さ」を感じました。自然の豊かさや食べ物の美味しさが良さである場所は、日本各地にあると思いますが、吉野は人と人の距離感が絶妙でした。拠点を探しているソトモノの私としても居心地が良かったんです。

ーー 移住者に対してウェルカムな雰囲気ということですか?

蓮池:もちろん皆さんに良くしてもらいましたが、お互いに自立しているという言葉がしっくりきますね。これまで色々な場所に住みましたが、なかには行政や住む人から「移住=永遠に住んでもらいたい」というプレッシャーを感じる場所もあったんです。

人口減少の問題や予算のある移住促進の都合など理由はあるとは思いますがの、「まずはお試し」という曖昧な選択肢がないと、住んでみてちょっと息が詰まると感じることもあるんです。

その点、吉野では完全に放っておかれるわけではないんですが、過干渉ではなく、「困ったことがあったら手伝うよ」くらいの自然なスタンスの方がほとんどでした。

「住む」「住まない」の最終的な決定権は本人にあると思わせてくれるような、ちょうど良い距離感を感じました。きっとそれは吉野の人たちが自然と身につけている感覚なのかなと思いますね。

菊地さんの愛犬ポンちゃん

ーー 実際に吉野を拠点にすることも視野に入れていますか?

蓮池:凄く居心地が良かったので、拠点のひとつとして視野に入れてますね。海外も含めた多拠点生活をするとなると、日本に帰ってきたときに吉野の人との距離感には癒されるだろうなと思います。

ゆるい繋がり方ができるということは、そこに縛られないということ。でも、帰ろうと思えばいつでも帰ることができる、そんな風に気軽に人や自然と繋がれる場所だと思えたので、今後も吉野との繋がりを絶やさずに過ごそうと思います。

ーー 他に感じた印象などは?

蓮池:吉野の人口は約6,300人ということもあって、人が少ないからこそ、今後新しい取り組みが生まれる可能性の余白がある町だと思うんです。新しいことを始めても吉野の人は受け入れてくれるんじゃないかと思います。

あとは吉野の人はキャラが濃い!と思いました(笑)。たとえば、シダ植物が好きすぎてシダ植物専門の植物園を自宅に開いた木下さんや、大根農家をしながら映画撮影の美術制作に関わる坂口さんなどもいたりして。話を聞くだけでも興味深い活動をしている人が、町に点在しているんです。

それは、きっと一風変わったことでも受け入れられる吉野の懐の広さの証で、それだけ余白というか余裕があるんだなという印象が特に強かったですね。新しいことを始めるには、ピッタリな場所だと思います。

春になれば吉野山の桜を求めて花見客が訪れる、人の流れもあります

ーー 吉野での暮らしは、やりたいことが明確な人におすすめ?

蓮池:やってみたいことがあれば、地元の人に相談すれば色々アドバイスやヒントをもらえると思います。とはいえ、移住者の方に話を聞いてみると、意外と目的なく来てそのまま移住したという方も多いそうなんです。

特にやりたいことがあるわけじゃないけど、なんとなく新しいものに触れてみたい、といった気持ちでも吉野にはそれを受け入れるだけの度量があります。結局、そこにも人との良い距離感が関係しているんじゃないかなと思いますね。居心地がよければ、住みたくなりますもんね。

ーー 滞在して感じた、吉野の課題は?

蓮池:町の雰囲気は移住者にとってすごく良いのですが、実用的な面でいうとまだ課題はあると思います。

例を挙げると、本格的な移住を考える前のワンクッションとなる、今回のTENJIKU吉野のようなお試し移住用の施設がまだ少ないですね。観光用の宿泊施設ではなく、数日から数ヶ月程度まで滞在できるような場所が。ご紹介した建築士の澤木さんがその課題解決のため、新たにシェアハウスを作ろうとしていて、少しずつ変わってきそうです。

他には、地元の方と移住者の交流場所が少ないので、積極的に動かないと、寂しい想いをするかもしれないです。キャラの濃い面白い人たちは吉野に点在していますが、その人たちを知ったり、実際に会って話をしたりするチャンスのある場所はほとんどなくて。夜は飲食店も閉まってしまうので、外から来た人と地元の人が気軽にコミュニケーションをとれるようなスペースがあると、さらに移住を考える人にとって優しい町になるんじゃないかなと思いますね。

逆に考えると、移住用の施設や交流するスペースを作りたい人にはピッタリの移住先と言えるかもしれません。そんな場所があれば、地元の方々はきっと喜んで立ち寄ってくれるでしょうし、ソトモノにはとてもありがたい存在になると思います。

その辺りにも、吉野の大きな可能性を感じています。人の流れは吉野へ向かいはじめているようなので、今後色んな方がそれぞれのスキルで余白を活用していくことを想像すると、吉野の未来がとても楽しみです。

吉野山から眺める吉野町

「テレワーク」が一般的になった2020年。今後は、移住や多拠点生活という生活スタイルを選ぶ人もどんどん増えていくことでしょう。そんな中で、ソトモノにとっても居心地が良い吉野のような場所は、改めて注目されるのではないでしょうか。

蓮池さんは、ご自身のことを「慎重な性格」という風に仰っていましたが、ある意味とても冷静な視点を持って、新しい拠点候補を見つめている印象が強かったです。

そんな蓮池さんが今後どういった拠点を選ぶのかも、興味深いところですが、吉野ならではの余白を上手く活用した、蓮池さんと地域の関わりが生み出すものも楽しみですね。

移住や多拠点生活を考えている人は、やりたいことを持って、あるいはフラっと吉野を訪れてみてはいかがでしょうか。吉野の余白が、あなたにハマるかもしれません。

ライター:岡本大樹

旅して撮って書くひと。地元の徳島に拠点を置きながら、日本全国を巡っている。好きなテーマは自然とローカルで、離島や僻地によく訪れる。これまでに取材で行った国はチェコやベルギー、サイパンなど。いずれは海外と国内での多拠点居住を目指しています。

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