すごい人生
2021-03-19
自然と人との心地よい距離感が魅力な町。三重県 尾鷲市で、理想の暮らしを追求する<西川太悟さん・朋香さん>
三重県、奈良県、和歌山県の3県にまたがる紀伊半島は、山・川・海に囲まれた紀伊山地が大部分を占める自然豊かなエリアです。
今回、紀伊半島の「三重県 尾鷲市」「奈良県 吉野町」「和歌山県 田辺市本宮」を中心とした「移住・多拠点暮らしコミュニティ in 紀伊半島」のプロジェクトが始まり、現地の滞在体験と新しい暮らしを考えるワークショップが行われました。
プロジェクトには移住や多拠点生活を考えている旅人が約30名集まりましたが、中でも尾鷲市に滞在した「せかたん(世界幸せ探検隊)」のユニット名で活動されている、西川太悟(にしかわだいご)さんと朋香(ともか)さんに、滞在中の様子や暮らしの価値観についてお話を伺いました。
旅で出会った2人の暮らし方の変化
大阪の岩脇山の山頂にて 2020年11月
世界中を旅して周り、現在は自動車を拠点にするバンライフとシェアハウス暮らしを両立して、まさに新しい暮らし方を実践している2人がいます。
せかたんとして活動するご夫婦の西川太悟さん(だいちゃん)と朋香さん(もかちゃん)。「Are you ready to be happy?(幸せになる覚悟は出来ているかい?)」のコンセプトで、YouTubeやSNSで旅や暮らしの様子を発信して、私たちに「幸せとはなにか?」と、問いかけてくれます。
それでは、2人の暮らし方と滞在先の尾鷲市の話を聞いてみましょう。
ーー 2人が旅を始めたきっかけは?
だいちゃん:最初は各々、バックパッカーでした。僕の場合は弟がバックパッカーで世界一周していたので、話を聞いて楽しそうだなと思って。介護の仕事で旅の資金を貯めてから、1人で世界一周の旅に出ましたね。
もかちゃん:元々海外に全く興味がなくて、「世界一周」ってワードすら知らなかったのですが、書店で『僕が旅に出る理由』という本を目にしたことがきっかけで、旅や世界一周に興味が湧いてきました。
その頃は仕事で精神的に疲れていて「今後どうしたい?」と、真剣に自分と向き合いました。そこで思ったのが「旅したい!」だったんです。せっかくだから面白い働き方をしたいと思って、大好きな沖縄へ行ってリゾートバイトしながら旅の資金を貯めました。
ーー 2人が出会ったのは旅先?
だいちゃん:そうなんです。最初は僕が旅で訪れた沖縄で、友人を通してもかちゃんと2016年に出会いました。次は2017年にタイのゲストハウスで再会して、約1ヶ月観光や路上パフォーマンスを一緒にして過ごしました。
トルコで路上パフォーマンスをしていた時に絵を買ってくれたトルコ人の人たちと 2017年10月
もかちゃん:だいちゃんがウクレレで歌ったり、私が筆文字で漢字を書いたりですね。そこで仲を深めていって、付き合うようになりました。その後に世界一周の旅がスタートしたんです。
ーー 旅がきっかけだったんですね。世界一周はどのようなルートでしたか?
だいちゃん:タイの後はカンボジア、ベトナム、ミャンマー、インド、ネパール、UAE、オマーン、キルギスタン、トルコ、ギリシャの計11ヵ国を1年間で周りました。その後は日本に戻って、バイクで47都道府県の旅を始めました。
バイクで日本一周中の写真。5万円のバイクに夢と荷物を大量に積んで出発!笑 2018年3月
ーー 世界だけではなく日本も!
だいちゃん:日本の良さをもっと知りたいという想いがあったんですよね。無事にゴールして、また海外を旅したり、2019年には日本に戻ってシェアハウスに住んだりして過ごしました。2020年からは中古で買ったダイハツ・タントをカスタムして、バンライフをしています。
もかちゃん:基本的には車が生活拠点で、旅の移動手段ですね。他には大阪で、友人のシェアハウスの立ち上げを手伝ったので、そこに滞在することもあります。
だいちゃん:ずっとパートナーとして、旅を続けながら等身大の2人の姿を伝えて活動していましたが、先日、4年記念日のタイミングで入籍し、夫婦となりました。
世界を旅した2人が気づいた、心を整えて暮らす方法「バンライフ」
軽自動車をDIYしてバンライフしながら食事中の一コマ 2020年7月
ーー おめでとうございます!! 2人の暮らし方は凄く楽しそうですね。バンライフを始めてみた感想をぜひ聞きたいです。
だいちゃん:自然と近い距離で暮らせるのが良いところですね。もちろん全ての場所で寝泊りできるわけではないですが、海や湖の近くで寝たり、自然の中でYouTubeの動画編集やリモートワークをしたり、リフレッシュになります。
もかちゃん:モノの少ないシンプルな暮らしなので、身軽に色んな場所に行けますし、日々のストレスも減らせている気がします。前の仕事や旅を通じて、ストレスが一番良くないと思っているので。
ーー バンライフで大変なところはありますか? 喧嘩すると逃げる場所がないと思ったのですが、そこら辺はどうでしょうか。
だいちゃん:その日のうちに仲直りしないと、どちらかが車外で寝る羽目になりますね(笑)。意見が合わないとき、喧嘩しそうになるときは、気持ちを溜め込まずに本音でとことんぶつかるようにしてます。
それぞれやりたいことはありますが、自然が好きな点や食の好みで似ている部分は多いと思います。
ーー 2人が考える理想の暮らしがバンライフだったのでしょうか?
もかちゃん:そうですね。2019年の帰国後はシェアハウスのメンバーとの出会いやコロナ禍ということもあって、これからの暮らしや家族との関わり方ついて改めて考えたんです。
自分たちの幸せは好きな環境で好きなことをしていく、そして家族や大切な人に身軽に会いに行けるように、生活拠点を自動車1台にするバンライフをすることに決めました。
三重県尾鷲市の滞在で紀伊半島に住むイメージを膨らませる
尾鷲の近くの河川敷にて撮影 2020年12月
ーー 今回のプロジェクトに参加した理由は?
だいちゃん:今後暮らしていく拠点の1つとして、紀伊半島エリアが気になっていました。僕の出身は奈良で、もかちゃんは三重。2人とも紀伊半島には縁があったんです。
もかちゃん:私の祖母が三重に住んでいて、大好きな祖母の近くで暮らせたら楽しそうだなと、ぼんやりと考えていました。だいちゃんのおばあちゃんは奈良に、お母さんは大阪に住んでいるので、今後の2人の家族との距離を考えて、紀伊半島での暮らしを体験したかったんです。
ーー 拠点が3つあった中で尾鷲市を滞在先に選んだ理由は?
だいちゃん:プロジェクトのキックオフイベントで、尾鷲市の印象が「僕たちと合いそう!」と、思いました。イベント中にもたくさんの人が映り込んでいたし、この場所に滞在したら楽しそうだと、思いましたね。
尾鷲の古民家シェアスペース土井見世でのお庭掃除の写真 2020年12月
ーー 尾鷲市の滞在ではどんなことをしましたか?
だいちゃん:「シェアスペース土井見世」で清掃のお手伝いをしたり、空き時間に仕事をしたりしました。夜にはNPO法人おわせ暮らしサポートセンター、定住地域おこし協力隊、尾鷲地域おこし協力隊の方々を紹介いただき、たくさんの人たちとお酒を飲みながら交流しました。
尾鷲市は漁業が盛んだそうで、ベラやカサゴ、小さなフグなどを釣って、新鮮なうちに捌いて食べてみる体験もしました。漁港は釣り人も多く、とてものどかな場所でしたよ。
地域おこし協力隊の池山さんはYouTube活動もされていて、一緒にコラボ動画も作成しました。元アイドルという経歴を活かして、尾鷲を動画でPRしているそうです。
尾鷲のシェアスペース土井見世の前で七輪でBBQを楽しんでいる様子 2020年12月
もかちゃん:宿は「わたまし」に泊まりましたが、一軒家で驚きましたね。シェアスペース土井見世から徒歩10分程度で、管理人の中尾さんが近所に住まれているので安心感がありました。
あとは実際に拠点として住むためにも、衣食住やコストの面も調べてきました。わたましからコンビニは徒歩10分、スーパーは徒歩15分程度で、イオンやダイソーもあるので、暮らしで困ることは少ないですね。魚を釣りに出ればさらに低コストで暮らせそうです。今回の滞在で、具体的に尾鷲での生活をイメージできるようになりました。
交流して、自然の中で遊んで見つけた尾鷲市の良さ
尾鷲の漁港のテトラポットにて 2020年12月
ーー 尾鷲市に滞在して見えてきた良さはありますか?
だいちゃん:人との距離感が理想的でしたね。ソトモノとして変に気遣われない居心地の良さがあります。釣りの動画撮影をするときも釣り道具を貸してくれたり、魚の捌き方を教えてもらえたり、自由にのびのびしているけど、頼ったら応えてくれる温度感がすごく有り難かったです。
尾鷲の近くの漁港にて夜空を撮影 2020年12月)
もかちゃん:街灯が少なく星が綺麗だったことに感動しました。高い建物もないので空一面が綺麗に見えるというか。とにかく自然の景色が良かったです。山と海以外に川もあって、自然に関しては何でも揃っている感じがしましたね。
ーー 人と自然との距離がちょうど良いと。住居やアクセスなどの住みやすさに関してはどう感じました?
もかちゃん:生活コストが安いですね。街中にあるシェアハウスは家賃3万円でした。10LDKの大きな一軒家をシェアハウスにする計画もあるみたいです。
漁港が近いので、地域のスーパーの海産物も新鮮で安いし、ホームセンターやコメダ珈琲などもあって、ある程度便利なのに自然があるから、環境面が理想的ですね。
ただ、電車やバスはあるのですが、1時間に1本あるかないかの本数で、車は必須だと思います。わたまし周辺は徒歩移動できますが、それ以外のエリアに住んだり、他のエリアへ行くときは車がないと不便だと思います。
のんびりとした尾鷲の漁港 2020年12月
ーー 尾鷲市の滞在で2人の理想の暮らしができそうですか?
だいちゃん:僕たちは自然が好きなので……大自然の中、物音の少ない静かな場所で、食物を育てて、とれたてのものでご飯を作って楽しく暮らせそうです。
ただ、気軽に泊まれる場所や交流できる場所はまだ少ない印象ですね。シェアハウスの立ち上げを経験しているので、僕たちがそういう居場所を作ってみたいとも思ってます。
ーー せかたんさんが居場所を作ってくれたら、「まずはお試しで住んでみよう」と思う人が増えそうですね。
だいちゃん:発信はずっとしているので、発信力を活かしたいなとも思ってます。尾鷲の魅力を磨くというか、さらに良いものにして、発信していきたいですね。
もかちゃん:尾鷲市は地元の漁師さんや備長炭の職人さんを目指す人たちの求人を募集しているそうです。地方に住んでみたいけど、仕事やお金がネックになっている人には良さそうですね。
尾鷲の古民家シェアスペース土井見世の前にて 2020年12月
ーー ありがとうございました。これからの2人の発信や活動が楽しみです。尾鷲市がこれからの拠点になっていったら良いですね!
だいちゃん:ありがとうございました。今回の滞在で、尾鷲市を多拠点生活の一つの拠点にしたいと思えたので、次回は1ヶ月程度の中長期滞在をしてみたいです。
もかちゃん:滞在をサポートしてくださった方たちと今後のやりたいことを共有できて、今回の滞在がとても良い経験になりました。尾鷲市はのんびりした自然の中で、暮らし方について考えられる素敵な場所だと思います。
自由な暮らしを求めて田舎の公園でリモートワークをする様子 2020年5月
人々の暮らし方が多様化していく時代。せかたんさんのように人それぞれの「理想の暮らし」は、既にあるような暮らし方には当てはまらないケースも出てくるでしょう。
長期で同じ場所に住むことだけが移住ではなく、多拠点生活やバンライフだってあります。名前がないだけで、様々な形で求めている暮らしをしている人たちもいます。
人と自然という環境の土台が揃っている尾鷲市は、人それぞれの心地よい距離感を考えられる、理想の暮らし探しにぴったりな場所かもしれません。