<Part2>島根県・石見地方2日間の旅 無形文化遺産の石州和紙から、石見神楽の魅力を紐解く
文化と自然に触れる、石見の伝統芸能
津和野を起点にして石見地方を巡る2日間の旅。
2日目は石見地方に古くから伝わる無形文化遺産の石州和紙の歴史に触れながら、石見神楽の魅力に迫ります。
伝統が息づく、紙の文化
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2日目は、石州和紙会館へ。
石州和紙は、1300年以上の歴史を持つ伝統工芸で、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。丈夫で美しい和紙は、障子や書道用紙としてだけでなく、現代では様々なアーティストとコラボで作ったインテリアやアートも多く存在する。
実際の製造工程を見学。後継者育成制度を利用して、石州和紙の職人になられた女性にお手本を見せてもらいつつ、紙すき体験をさせてもらったのだが、これが想像の10倍難しい。
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和紙の紙料が撹拌された漉き舟の中に、「簀桁(すけた)」と呼ばれる道具を入れて、「数子・調子・捨て水」と和紙を漉くのだが、水が入っている道具がずっしりと重く、紙料を入れた状態で縦横均一になるように漉くのには熟練の技が必要なのだ。
筋力とは無縁の生活を送る私がやると思わぬ方向に液体が飛び散り、均一に回し入れるなんて十年以上はかかりそうな気配。改めて職人さんの手仕事の繊細さと力強さに驚かされる。
“和紙” という存在の奥深さに気づかされる場所だ。
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神楽面に宿る、職人の魂
つづいて訪れたのは、「小林工房」。
石見神楽で使われるお面の制作現場の話を、職人である小林泰三さんにお伺いした。
石見神楽とは、室町時代後期から江戸時代にかけて発祥したとされる、石見地方に伝わる神楽のこと。神職が行う神楽舞が起源だが、明治時代に神職の舞が禁じられたことから、民俗芸能として伝承されたという。
小林さんが生まれ育った島根県大田市温泉津町でも、お祭りや披露宴などで石見神楽が舞われるほど身近な存在だった。
石見神楽の舞手ではなく、お面づくりの方に興味を持ったきっかけは何だったのか
それは、幼い頃から見ていた神楽で、お面ひとつで一般人が別人格になり代わる姿に魅了され、コツコツと貯めたお小遣いを握りしめて伝統工芸品である石見神楽面を職人さんから購入したのが転機だという。神楽面は幼い子にとってはとても高価な品物だが、快く要望にそった面を製作してくれた。
そして、11歳より浜田市にある神楽面職人さんの元に通い始めた。手取り足取り教えてもらうスタイルではなく、身の回りのお世話をしながら、職人さんがどのようにお面を作っているのか学んでいったそう。
その後、大学で民俗学を専攻し、同大学の職員を経て工房を設立する。
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和紙面は、石見の土で型を作り、石州和紙を幾重にも貼り重ねて作るため、紙といえども強靭で軽い。元型を打ち壊す脱活法を経て、胡粉を40回以上も塗り重ねた素地に、色鮮やかな彩色をして完成する。
ひとつひとつ手作業で作られる面は、同じものが二つとない。
お面の表情のわずかな違いに込められた意味を一つひとつ読み解き、命を吹き込むようにして作るのが、小林さんの制作スタイルだ。
古いお面の修復も、上から和紙を重ねてコーティングすれば安価に直せるが、あえてそれをしない。それは、お面が重ねてきた歴史を塗り替えることなると考えているから。そのため、修復するのではなく、あえてレプリカを作るのだという。
お面一つ作るのにも、和紙を貼って乾かす作業などを繰り返すため、完成までに数ヶ月を要する。
こうした丁寧な職人の手仕事を間近で見ると、夜に観る神楽がより楽しみになる。
名物・大穴子にかぶりつく
ランチは、寛ぎの宿 輝雲荘で。石畳の温泉街に溶け込むような佇まいは、どこか時を忘れさせる風情があり、玄関をくぐった瞬間から旅情が一気に深まる。
館内は木のぬくもりと和の落ち着きに満ち、静かに流れる時間が心をほどいてくれる。湯上がりに楽しみたいのが名物の大穴子丼。ふっくらとした身に、香ばしい焼きの風味。ボリュームもありながら、上品な味わいで箸が進む。
日本酒との相性も抜群で、昼から軽く一杯やりたくなる。
銀山が生んだ、もうひとつの町並み
午後は、世界遺産である石見銀山へ。
かつて世界有数の銀の産地として栄えたこの場所は、今も当時の古き良き町並みを残している。特徴的なのは、“保存するだけではなく、活用している” こと。
古民家がカフェやショップとして使われ、現代の感性と歴史が自然に共存している。歩くだけで楽しい、静かな文化エリアだ。
石見銀山で商業や鉱山業、酒造業を営み、掛屋や御用達などの御用を請け負った有力商人の屋敷を公開。季節ごとに変化するしつらいも見どころのひとつ。
温泉と酒に浸る、贅沢な夜
この日の宿は、有福温泉アウルリゾート。約1300年以上の歴史を持つ名湯として知られる温泉街・有福温泉にありながら、モダンな滞在が楽しめる宿だ。
各部屋に源泉掛け流しのお風呂がついていて、いつでも温泉が楽しめる。
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無色透明でクセのない「単純アルカリ泉」で刺激が少なく、肌あたりがとてもなめらかで、長湯しやすい穏やかな湯。
この温泉は「美人の湯」として知られていて、アルカリ性の成分が古い角質をやさしく落とし、入浴後は肌がつるつる、しっとりとする。まるで化粧水のような保湿感の高さが特徴から、女性に人気だ。
そして館内には、無料の地酒コーナーがあって、いつでも自由に地酒を楽しめるという、酒好きにとっては楽園のような宿。
風呂上がりに一杯、食後にもう一杯。
時間を気にせず、土地の酒を味わえる贅沢がここにはある。
夜を締めくくるのは迫力満点の石見神楽
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旅の最後は、有福温泉の「湯の町神楽殿」で行われる石見神楽だ。
石見神楽は、太鼓や笛のリズムが速い、リズミカルな八調子の舞が特徴だ。
それもそのはず、石州和紙で作られた丈夫で軽いお面で身軽に動けることから、ダイナミックな動きとなる。なかでも代表的な演目「大蛇(おろち)」は圧巻だ。
『古事記』や『日本書紀』に記された神話である須佐之男命の八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治が元になっていて、何頭もの蛇が会場をとぐろを巻きながら舞い踊る。クライマックスシーンでは、スモークを使った演出で場が包まれ、異世界感が増すのも楽しい。
客席との距離感も近く、3頭の大蛇が客席まで噛みつきに来る演出もあり、思わずキャーと歓声が上がる。写真だとなかなかこの迫力が伝わらないので、これは絶対現地で体験してほしい。
印象的だったのが、演じているのが地元神楽団だということ。お囃子隊には小学生ぐらいの小さいお子さんもいて、地域全体で神楽を守り、次の世代へとつないでいる姿に胸が熱くなる。
その熱量は、観光としての “ショー” を超えている。気づけば、会場全体が引き込まれていた。
公演終了後、煌びやかな衣裳を着せてもらったのだが、舞い踊っていたので軽いのかと思いきや、驚くほど重い。正絹や金糸、銀糸などで刺繍された豪華な衣裳は総重量にして15キロ以上はありそうだ。
これを着て軽やかに舞るには体力がいるため、演者全員が男性だったのにも納得する。ずっと、この美しいショーを守り続けてほしいと心の底から思った。
石見地域の伝統文化や郷土料理を味わう没入感のある旅
石見の旅は、派手ではない。けれど、じわじわと心に残る深さがある。
地元でしか飲めない酒、その土地で食べるからこそ美味しい魚、そして、暮らしの中に息づく伝統文化。
観光地を “消費する” のではなく、地域の人が大切に受け継ぎ、守り続けることで、その土地の時間に“入り込む”ような没入感のある旅ができる。
次の週末、少しだけ遠くへ。石見には、その価値がある。